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劣化ウラン弾が初めて使われた湾岸戦争からちょうど10年が経過した。 以来、ボスニア、ユーゴ空爆などでアメリカやイギリスは劣化ウラン弾を使ってきた。 ボスニア・ヘルツゴビナ ----------劣化ウラン弾を拾った男
「いつも枕元に置いて一緒に寝て居るんだよ」と冗談を言いながらエルリッチ・ジョボ(48)さんはそっと白い包み紙を私の目の前に置いた。
興味深く覗いていると素手で包み紙を開き中から、10cmほどのペンより太い黒褐色の砲弾を取りだした。
イラクの砂漠で見たものと同じだった。劣化ウラン弾だ。彼はこれを大事そうに素手で握っていた。
エルリッチさんはサラエボに近いハジッチ村にあるユーゴ連邦軍のトラックや戦車、装甲車の修理工場で働いていた。
村の男たちはほとんどこの工場の労働者だった。
ボスニア内戦がまもなく終わろうとしていた、1995年9月、NATO軍はこの工場を空爆し、劣化ウラン弾約3,400発を撃ち込んだ。
労働者たちは落ちていた劣化ウラン弾を拾い集め、リサイクルして防弾ジャケットに加工したり、エルリッチさんのように記念に持って帰ったものもいた。
その危険性は全く知らされていなかった。
昨年10月大腸ガンの手術をしたボジダル・トミッチさんは「危険だなんて知らされなかった。
大人も子どもも拾って記念に取って置いた。
そのうち、仲間が次々と病気になって死んだ」と言って手術の傷跡を見せてくれた。 内戦の終結した1996年。この村のセルビア人はユーゴ国境に近い町ブラトナツに移住させられた。その数、3500人。 ブラトナツは現在人口2万2千人のセルビア人の町。 この町の診療所長ヨバノビッチさんは「年間延べ9万2千人の受診者があるなんておかしい」と最初に異常に気づいた一人だ。 独自調査に乗り出したエルリッチさんは死亡率に注目した。 「地元住民が6%。ハジッチ村からの移住者が11.7%と異様に高かった」という。 村のはずれの丘の上には墓地がある。内戦で亡くなった軍人の墓が並ぶ。その裏側にハジッチ出身者の墓がかたまってある。みな新しい墓ばかりだった。 死因はわからないが、今年亡くなった人はすでに10人、まだ一ヶ月しか経っていないのに。 ユーゴスラビア軍事医学アカデミーのスタンコビッチ法医学部長は 「空爆後5−6年の間にハジッチからの移住者の10%にあたる人が肺、膀胱、肝臓ガンなどで死亡した」と言っている。
セルビア --------- ボスニア戦争が終わって3年。北大西洋条約機構(NATO)軍は1999年3月から78日間のユーゴスラビア空爆で約3万1千発の劣化ウラン弾を使用したと言われている。
国連管理下にあるコソボ以外でもセルビア南部やモンテネグロで約3千から5千発の劣化ウラン弾が使用された。
セルビア南東部のブラニエではテレビアンテナの中継所に撃ち込まれた。宿泊したホテルの裏山を車で15分ほど上ると開けた山頂になり有刺鉄線で囲われた施設があった。 フェンスには放射能汚染を示す標識が付けられ、立ち入りを制限している。 ユーゴスラビア連邦共和国はNATOが始まる前から劣化ウラン弾使用を予測し、その専門スタッフを配置していた。 その中心を担っていたのが、ベオグラード近郊のビンチャ核研究所だ。
ここの環境調査部長をしているスネジャナ・パブロビッチさんは「セルビア南東部とモンテネグロの合わせて8カ所、2,4ヘクタールに30ミリの劣化ウラン弾が撃ち込まれた。
全て人家から数キロ離れた無人地帯で、木や発泡スチロールで作った約300のダミー戦車に当たった。
地表に落ちているものは回収したが、地中に埋まっているものはまだそのままだ。
飲み水や土壌の汚染が広がる」と心配している。
コソボ ---------コソボの「平和維持部隊(KFOR)」のプレス担当や国連暫定統治機構(UNMIK)の係官は 「ユーゴスラビア連邦共和国の劣化ウラン弾への対応はヒステリックで反NATOプロパガンダ」といかにも劣化ウラン弾の被害など起こらないと言いたげだった。 さらにWHOの担当者は劣化ウラン弾の汚染地域を「フェンスなどで囲ってしまったら住民の住宅を作る場所がなくなってしまう」と言う返事。 住民の健康を気遣うはずのWHO係官ですら劣化ウラン弾になると全く否定的な態度になる。アルバニア国境に近いジャコビツァはNATO軍が認めただけで12,400発を超える劣化ウラン弾がつかわれた。 同市でNATO軍の劣化ウラン弾で破壊されたセルビア戦車を見つけた。住宅地からおよそ2キロほど離れた山中だ。 所々に劣化ウラン弾に被弾したと思われる2,3センチの穴があいていた。囲いや立入禁止の表示は何もない。 近くの住民はこの山から水道水を引いているという。
「危険だなんて知らされていない、知ったところで、どおすりゃいいのさ」と吐き捨てるように言った。
アルバニア国境の町プリズレンの中央病院を訪ねた。白血病やガンなど、劣化ウラン弾の影響と思われる病気は増えていないか訊ねたが医師たちは一様に、 「劣化ウラン弾についての心配はない、 KFORも大丈夫と言っているじゃないか、今までも白血病の子どもの数は戦前と変わらない」と否定的だ。 また、ある住民は「NATOがそんな危険なものを使う分けないでしょ」と端から気にかけていない。 NATO軍兵士が白血病にかかっている話やイラクの劣化ウラン弾の影響を話しても、自分の所は大丈夫と思っているようだ。 「アルバニア人はNATOイコール解放軍だから住民に被害を及ぼすことはするわけが無いという神話を信じているのだ」というベオグラードのジャーナリストの話を思い出した。 NATO軍兵士は汚染地帯と思われる所に立ち入る時には、防塵マスクや防護服を着て対処しているのに住民には何も対策がなされていない。 NATOは「人権」や「人命」を守るためといって空爆を行い、劣化ウラン弾汚染で住民を永久に苦しめる、NATOとは何かが今するどく問われている。 |
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