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マーシャル諸島(ビキニ水爆実験) 目次
  1. ビキニ水爆実験 被曝者はいま
  2. 被曝2世のジョカネ・マタヨシさん
  3. 誕生日プレゼントは水爆実験だった
  4. プロジェクト4,1 ― 人体実験の疑惑
  5. 温暖化

4,温暖化

マーシャル諸島 レポート


マジュロ島のセブンティーンビーチを案内してくれた環境省のガイド・リトさん。子どもの頃はピクニックをした。


マジュロの海抜は高いところで3メートルぐらいしかない。 大潮の日、海岸のヤシの木が根本からさらわれてゆく
 「ここは数年前までピクニックや海水浴客でにぎわい、きれいな砂浜があったのです」と環境省のガイド・リトさんが言った。
 マジュロ島の人々の憩いの場だったセブンティーンビーチは、押し寄せた波で、ヤシの林は無惨にえぐり取られていた。
 このビーチは海面上昇による波の浸食で数年前から様子が一変してしまった。
 3月4日の夜は満月だった。澄み切った空気を通して青白い月光が昼のようにラグーンの海を照らしていた。月の満ち欠けと連動した潮の干満はちょうど大潮を迎えていた。この時期は干潮と満潮の差が最も激しくなる。
 翌日の午前中セブンティーンビーチを訪れるとヤシ林の向こうにコバルトブルーの海が見えた。近づくと海岸線はヤシの林から50p近く段差を作りいきなりゴロゴロとした石が転がるリーフと繋がっている。干潮時間だったので波打ち際は200メートルほど沖のサンゴのリーフまで退いている。海水が引いたリーフ内にはヤシの大木が何本も無惨に転がり腐りかけていた。そこはかつて陸地だった事を物語っている。
 午後5時過ぎ再びセブンティーンビーチに行った。ちょうど満潮の時刻を迎えていた。巨木の根元が半分むき出しになって波に洗われている。この木も近いうちに波にさらわれてゆく運命にあるようだ。波の引く音に混じってゴロゴロゴロとこぶし程の石が海中に引き込まれてゆく。陸地が削り取られてゆく不気味な音だ。
 マーシャル諸島共和国はフィージー諸島共和国やツバルなどとともにも海面上昇によって水没の危機に見舞われている。
 地球の温暖化の影響で南極や北極の氷が溶け海面が上昇して太平洋の小さな島国を水没させる。海水温の上昇は水を膨張させ、海面上昇に拍車を掛けていると言われている。
 マーシャル諸島共和国はどの島も標高が2,3メートルと低い。最高でも数メートルだ。海面上昇の影響をもっと受ける国の一つだ。
 マジュロ気象台の観測記録に寄ればこの50年間に難関平均気温が約1度から2度上昇している。そして、海面はこの20年間で約5センチメートル上昇している。「今後どのように変化するか我々には予測できない」とマジュロ測候所のレジナルド・ホワイトさんはいう。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第三次評価報告書」2001年によれば、21世紀中に最大88センチメートル上昇すると予測している。同報告書は1メートルの海面上昇が生じた場合、マーシャル共和国マジュロ環礁の土地の80パーセントが失われる」としている。
 この国が出す温室効果ガスの排出量は世界中の総排出量のわずか0,004パーセントだ。アメリカや中国、ヨーロッパや日本などの大国が温室効果ガス排出を急いで削減しなければ、マーシャル諸島などの小さな島国を水没させてしまうことになる。
 2001年国連環境計画(UNEP)の報告書の中でクラウス・トプファー事務局長は「今、行動せよ」「脆弱な地域、特に途上国が温暖化に適応出来るように助けなければならない道義的責任がある」と訴えた。
 冷戦時代、核軍拡競争の犠牲になり、多くの被曝者が今なお苦しんでいるこの国は温暖化問題でも大国の犠牲になろうとしている。

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