子ども専用の墓場‥‥バスライラク南部の都市バスラの町の外れに墓地があった。
ここは湾岸戦争以後作られた新生児から10才までの子供専用の集団墓地だ。 埋葬されている子どもの数は正確には解らない。誰も墓地を管理しているものが いないからだ。数千とも数えきれない。昨夜乗ったタクシーの運転手が言ってい た「この国では子供がたくさん死んでゆく」という意味がはっきり分かった。若 夫婦が墓参りに来ていた。よく見ると小さな土饅頭の上にタイルの破片でできた 粗末な墓標が乗せられていた。墓は隙間なく掘られていた。先ほどから歩いてい たところが土饅頭の上だったのだと気づいたとき、思わず後ろを振り向き合掌し てしまった。 夕焼けに染まる墓地の脇の広場では子どもたちが裸足でサッカーに興じていた。 歓声を上げながらボールを追いかける子どたちがいつか、ここに眠ることになる かも知れない、貧しい子どもたちの運命を見てしまったようで悲しみがこみ上げ てきた。 私がカメラを提げて墓地から出てくると子どもたちに捕まってしまった。イラ クの子どもたちはカメラを見るとどこでも集まってきて、パニック状態になって しう。彼等を納得させるためにはシャッターを何度か押すしかない。先ほどのセ ンチメンタルな心は、押し寄せて来た元気な子どもたちによって一気に吹き飛ば されてしまった。この時にシャッターを押した一枚がこの写真である。現像があ がったフィルムをルーペで覗いた時、写真に写っている子どもたちと背後の子ど も専用墓地とのギャップにぎょっとしてしまった。
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